アメリカ合衆国の大統領選でバラク・オマバ氏が次期大統領に決まりました。史上初のアフリカ系アメリカ人の大統領誕生という歴史的な出来事を伝える現地の新聞の写真の見出しに書かれた「Change has come to America」の文字に目を奪われました。
見覚えるのある、いや、聞き覚えのある言葉でした。サム・クック(Sam Cooke)の曲「A change is gonna come」と似ている。
新聞の見出しは、オバマ氏の勝利宣言から採られた、この歴史的出来事をそのものずばりで表す言葉でした。そして、その「Change」は、1964年に亡くなったサム・クックがこの曲の中で訴えた「Change」を直接に引き継いだものでした。
サム・クックは、1950年代から1960年代に活躍した大スターで、現在で言うソウルシンガーの先駆けといえる人です。ただ、その音楽的業績にとどまらず、黒人のミュージシャンが白人に言いように搾取された時代にあって、自らの音楽出版社や若手育成のためのレーベルを作るなど黒人の地位向上の取り組みを実践した人でありました。
日本では、今回のオバマ大統領誕生に絡んで、黒人の公民権運動の先駆者の中で「I have a dream」の演説で有名なキング牧師にスポットライトが当たりがちではありますが、サム・クックもまた、音楽の大スターというだけではなく、当時の状況において黒人の地位向上の取り組みの先頭に立った同世代の先駆者として、キング師と同列に並べられるに値する人物でした。また、同じく暗殺されたマルコムXや、ベトナム戦争への徴兵を拒否して世界タイトルを剥奪されたボクシング世界チャンピオンのモハメッド・アリ(当時はカシアス・クレイ)とも親交が深く、ある意味でキング牧師以上にラジカルな面もあったといいます。
当時のアメリカ南部は黒人の少年が白人の女性に声をかけただけで、殺されてしまう事件が起きるという絶望的な状況でした。こうした中で、動き始めた公民権運動に対して凶暴な様相さえ見せる根深い人種差別主義に直面して、サム・クックは1963年にプロテストソングともいえる「A change is gonna come」を録音しました。
歌詞は
I was born by the river in a little tent
Oh just like that river I’ve been running ever since
It’s been a long, a long time coming
But I know, a change is gonna come,oh yes it will
略
There been times when I thought I could’t last for long
But now I think I’m able to carry on
It’s been a long, a long time coming
But I know, a change is gonna come,oh yes it will
世界恐慌のまっただ中の1931年にミッシシッピ州クーラクスデイルに生まれ、シカゴで育ったサム・クックは、ミッシシッピ川に例えて歌い始めます。「川の畔のテントに生まれた。それからというもの、僕は(川の流れのように)走り続けている。長い、長い時間がたった。だけど、いつかは変化が訪れるさ きっと」と。
オバマ氏の勝利演説はこの曲に対する返歌といえるものでした。
It’s been a long time coming、but tonight,bcause of what
we did on this date in this election at this defining moment change has come to America.
この言葉が新聞の見出しになっていたのでした。
あとでサム・クックとオバマ氏の「Chnage」をネット検索して分かったことですが、オバマ氏は選挙戦のキャンペーンでこの曲を使っていたようです。自らがいわゆる典型的なアフリカ系アメリカ人ではないという出自もあり、黒人の先達を意識的に取り上げたという意味合いも少なからずあったとは思いますが、サム・クックの一ファンである私にとってはうれしい発見でした。
サム・クックは1964年に、公民権運動の終着点を見届けぬまま、未明のホテルで娼婦に撃たれて死ぬという不可解な事件で、34年間の生涯を終えました。公民権運動の決着も見ぬまま、帰らぬ人となりました。事件は警察が「またニガーが殺されただけの話さ」と単なる射殺事件として処理されていたという。皮肉にも、殺された朝の新聞にはキング牧師のノーベル平和賞受賞の記事が載っていたそうです。
もし生きていたら77歳です。アフリカ系アメリカ人の大統領誕生という、このできごとをどう受け止めたのでしょうか。
サム・クックのことをお知りになりたい方は、伝記の「ミスター・ソウル サム・クック」(ダニエル・ウルフ著・ブルース・インターアクションズ刊)が最適です(中古本で入手可能ですが、高価です)。DVDも出ています。
また、サム・クックが生きた1960年代前半の空気に触れると言うであれば、ともに映画の「Ali」と「マルコムX」がいいのではないでしょうか。